月例経済報告

 

月例経済報告(R6.1.25)

基調判断

〈現状〉

・景気は、このところ一部に足踏みもみられるが、緩やかに回復して

 いる。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果

 もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、世界的な

 金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外景気の

 下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、

 物価上昇、中東地域をめぐる情勢金融資本市場の変動等の影響に

 十分注意する必要がある。さらに、令和6年能登半島地震の経済に

 与える影響に十分留意する必要がある。

 

 

令和6年能登半島地震のストック面での影響試算

○  令和6年能登半島地震では、住宅や道路・港湾施設等のストックの損壊に加え、停電や断水が広範に発生した。これらは、地域住民

  の生活のみならず、生産や物流、観光等を通じて幅広く経済に影響を及ぼしている。

○ 能登半島地震による経済への影響を分析する一環として、東日本大震災や熊本地震の際の試算方法を踏まえ、市町村ごとの震度や

  被害状況に応じて、過去の大地震における損壊率を参照しつつ、ストックの毀損状況を暫定的に試算した。

○ 今回の試算は被害額を積み上げたものではなく、市町村ごとの震度に基づいた機械的な試算であり、幅をもってみる必要がある。

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。

 先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に伴う 影響に

 よる下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。

 

GDP速報

○  20237-9月期のGDP2次速報では、名目GDPは横ばいの一方、実質成長率は前期比▲0.7%(年率▲2.9%)となった。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、持ち直している。

消費者マインドは、昨年秋以降、持ち直しに足踏みがみられていたが、雇用環境の改善や食料品等の物価上昇の落ち着きを反映

 して、再び持ち直している。世帯属性を問わず、持ち直している。

・コロナ禍を経て、オンライン消費は大きく増加した。特に、60代以上の高齢世帯の伸びが大きい。一方、他の主要国と比較すると、

 オンライン消費には更なる拡大の余地がある。

・個人消費に占める分野別支出の割合を他の主要国と比較すると、我が国は、飲食料品の割合が高い一方、娯楽やスポーツ・文化、

 外食・宿泊サービスが低い。これらのサービス消費は、一人当たり支出金額でも、他国より低い。

・この30年間の一人当たり支出額をみると、高齢化で医療関係、IT化で通信関係が伸びる一方、娯楽・スポーツ・文化は減少した。

 余暇時間を比較すると、我が国は、男性を中心に低い水準となっている。働き方改革による長時間労働の抑制、有給休暇取得の促進

 は、ウェルビーイング向上とともに、時間消費型のサービス消費の拡大に資することが期待される。

実質総消費動向指数は、前期比で、8月▲0.1%90.1%10+0.1%110.0%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、8月▲0.9%9月▲1.0%10+0.5%11+0.4%12+1.1%。 

  ・11月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.3%となった。

 

物価

○ 国内企業物価は、横ばいとなっている。輸入物価は、このところ上昇している。

 消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。

消費者物価は、食料品値上げ一服により2%台で緩やかに上昇。電気・ガスの激変緩和措置等は、これまでの物価上昇を和らげる

 ことに寄与している。

・コロナ禍以前の米欧の物価上昇はサービスの寄与が大きく、日本でもコロナ禍前に比べてサービスの寄与は高まりつつある。

 人件費の割合が高いサービス分野で、賃金上昇が価格に転嫁され、賃金と物価がともに持続的に上昇していくことが重要となって

 くる。

・物価上昇の主因は、食料品など財からサービスへとシフトしつつある。アメリカでは、物価は、財を中心に落ち着きつつある一方

 で、堅調なサービス需要を背景に2%を上回る伸びとなっている。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設は弱含んでいる。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、8+4.4%9月▲1.5%10+1.0%11月▲4.0%

・持家着工数は前月比で、7+1.0%8+5.8%9月▲9.3%10月▲8.4%11+0.9%

・貸家着工数は前月比で、7+1.5%8月▲4.4%9+4.8%10+1.8%11月▲5.6%

・分譲着工数は前月比で、7月▲16.0%8+17.0%9月▲2.0%10+8.5%11月▲6.6%

   公共投資は、底堅く推移している。

・請負金額は前月比で、7月▲4.3%(出来高+1.7%)、8月▲10.8%(出来高▲0.4%)、9+8.5%(出来高+0.7%)、10月▲7.9%

(出来高▲0.3%)、11+7.0%(出来高▲0.6%)、12+9.2%             

 

雇用・賃金の動向

○ 企業の人手不足感はバブル期以降最高水準に高まる一方で、ハローワーク(公共職業安定所)の有効求人倍率は横ばい傾向と、

  両者に乖離がみられる。デジタル化に伴う求職手段の多様化が進む中、ハローワークを経由した就職者の割合は15%程度まで低下し、

  民間職業紹介所等が増加した。

  ハローワーク利用者は若年層で減少し、高齢者の利用は増加した。

   民間職業紹介を通じた正社員の求人は着実に増加している。さらに、近年は、すき間時間を活用したスポットワークという形で、アプリ

  を通じた短時間の就業のマッチングも増加した。

   転職の希望者は、男女ともに正社員を中心に1,000万人超(就業者の15%)まで増加した。賃金の上昇圧力につながる可能性を含んで

  いる。転職希望者の割合は、男女とも2534歳で最も高く約25%となっている。

   今年の春闘に向け、経営側からは、2023年以上の意気込みと決意が示されており、特に物価動向を重視し、ベースアップを念頭に

  おいた賃金引上げを各企業に要請している。また、労働側からは昨年を大きく上回るベースアップの要求額が示されている

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

   ・有効求人倍率は、81.2991.29101.30111.28(正社員は1.01)となった。

・完全失業率は、72.7%82.7%92.6%102.5%112.5%となった。

 

投資・収益・業況

○ 企業収益は、総じてみれば改善している。

○ 設備投資は、持ち直しに足踏みがみられる。

○ 業況判断は、改善している。

  倒産件数は、増加がみられる。

・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20233+16+59+912+1220243+8

  「大企業・非製造業」は、20233+206+239+2712+3020243+24

  「中小企業・製造業」は、20233月▲66月▲59月▲512+120243月▲1

  「中小企業・非製造業」は、20233+86+119+1212+1420243+7

 

生産

 生産は、持ち直しの兆しがみられる。

・生産は、世界的な半導体需要の底打ちから、電子部品・デバイスが持ち直すなど、持ち直しの兆しがみられる。一方、一部自動車

  メーカーにおける国の認証制度に係る不正問題により生産・出荷が停止されたことから、輸送用機械の生産への下押し、サプライ

  チェーン企業への影響に留意が必要である。

・鉱工業生産指数は前月比で、9+0.5%10+1.3%11月▲0.9%12+6.0%(予測)、1月▲7.2%

・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、8月▲0.5%9月▲3.4%+10+0.3%11+1.6%

・電子部品・デバイスは前月比で、8+0.5%9月▲0.2%10+6.6%11月▲0.9%

   ・輸送機械は前月比で、8月▲3.7%9+4.2%10+2.2%11月▲1.6%

 

外需

○ 輸出はこのところ持ち直しの動きがみられる。輸入はおおむね横ばいとなっている。

輸出は、欧州経済の弱さを受けてEU向け輸出が弱含んでおり、持ち直しの動きに足踏みがみられる。工作機械等の金属加工機械

 は中国からの受注が弱く軟調の一方、建設・鉱山用機械は米国向け等で堅調、半導体関連も今後の持ち直しが期待される。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

 

景気ウォッチャー調査  

○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、4か月ぶりに上昇した

・現状・季節調整値DIは前月差で、9月▲3.710月▲0.411月±0.012+1.2

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、2か月ぶりに下降した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、9月▲1.910月▲1.111+1.012月▲0.3

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、景気は持ち直しの動きに足踏みがみられる。先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうことが期待

     される。ただし、不動産市場の停滞に伴う影響等に留意する必要がある。

202310-12月期の成長率は、前期比年率4.1%に減速した。国内需要が伸び悩む中、一部品目は輸出に向かい、輸出価格は

  下落傾向にある。不動産市場の停滞が続き、住宅価格は下落傾向となっている。若年失業率は12月は14.9%と高水準となった。

・実質GDP成長率は、2310-12月期で前年比+5.2%(前期比+4.1%)。

・消費は持ち直しに足踏みがみられる。

・生産は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。

・財輸出はおおむね横ばいとなっている。

・固定資産投資は伸びがおおむね横ばいとなっている。

・新築住宅販売価格は下落している。

・都市部調査失業率はおおむね横ばいとなっている。

・消費者物価は下落した。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。

○ 韓国では、景気は持ち直しの動きがみられる。

○ インド・インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ 台湾・タイでは、景気は持ち直している。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は回復している。 先行きについては、回復が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等による

     下振れリスクに留意する必要がある。

20237-9月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+4.9%

○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。

12月の失業率は3.7%となった。

○ 設備投資はこのところ増勢が鈍化している。

・設備投資は、インフレ抑制法や半導体法等を受けて、製造業による投資が大幅に増加したことにより、構築物投資(工場建設等)

  が増加傾向となっている。

○ 生産は緩やかに増加した。

○ 消費は増加しており、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。

背景には家計のバランスシートの改善があり、総資産に対する負債の比率は過去 20年間で最低水準となっている。ただし、

  低所得者層の預金水準はコロナ禍前を下回っている。クレジットカードローンの 新規延滞率は上昇傾向であるが、過去に比べ

  低水準となっている。

○ 住宅着工数はこのところ緩やかに増加・住宅価格は上昇している。

○ コア物価上昇率はこのところおおむね横ばいとなっている。

○ 財輸出は緩やかに増加した。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気は弱含んでいる。

 ・237-9月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で▲0.5% (イギリスは▲0.5%、ドイツは▲0.5%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスは上昇している。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに低下している。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+3.9%12月)、イギリス+5.8%12月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。

○ 生産は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。