月例経済報告

 

月例経済報告(R6.4.23)

基調判断

〈現状〉

・景気は、このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している。

〈先行き〉              

・先行きについては、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の

 効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、

 世界的な金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念など、海外

 景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

 また、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等の

 影響に十分注意する必要がある。さらに、令和6年能登半島地震

 経済に与える影響に十分留意する必要がある。

 

 

世界の経済情勢

○  世界の景気は、一部の地域において弱さがみられるものの、持ち直している。

  先行きについては、持ち直しが続くことが期待される。ただし、世界的な金融引締めや中国における不動産市場の停滞に伴う 影響

  による下振れリスクに留意する必要がある。また、中東地域 をめぐる情勢、金融資本市場の変動の影響を注視する必要がある。

 

GDP速報

   202310-12月期(2次速報)のGDP成長率は、実質では前期比+0.1%(年率+0.4%)となった。

 

令和6年能登半島地震の影響

○ 令和6年能登半島地震では、1.12.6兆円程度のストック毀損が生じたことに加え、石川県・富山県・新潟県の3県で1-3月期に

  1,000億円程度の直接的なGDPの損失があったと試算される。

○ 3月16日に延伸した北陸新幹線(金沢~敦賀間)は、開業1か月で72万人(1日平均2.3万人)が利用、北陸応援割をはじめと

  する政策効果も相まって、北陸経済の活性化に寄与した。

  「景気ウォッチャー調査」の北陸地域の現状・先行き判断DIは2月以降50を超える水準に回復した。

  引き続き、復旧・復興支援を切れ目なく進めていくことが必要である。

 

個人消費の動向

○ 個人消費は、持ち直しに足踏みがみられる。

個人消費は、名目では過去最高水準に拡大する一方、実質では力強さを欠く。

 実質の耐久財消費は相対的に堅調な一方、非耐久財消費は長期的に緩やかな減少傾向となっている。

 サービス消費も、実質ではコロナ禍前を下回る。

・足下の小売販売は、一部自動車メーカーの出荷停止の影響で自動車は減少する一方、百貨店等が増加した。

 かばん・アクセサリー等の高額品が増加しており、インバウンド増加の影響のほか、株価上昇の影響もあり日本人の消費も

 増加した。

外食売上高はコロナ禍前のトレンドを超えて増加している一方、客数の回復は途上にある。消費に占める60歳以上世帯のシェ

 は4割超まで拡大した。外食支出の小さい高齢世帯の増加、コロナ禍後の高齢者の外出回復の遅れも影響している可能性がある。

大型連休の旅行者数は、国内はほぼコロナ禍前水準に戻り、海外も持ち直す見込みとなっている。そのほか、ライブやテーマ

 パーク、 スポーツ観戦は、売上高・人数ともに挽回消費の動き。学習塾は、少子化の中でも受講生数、売上高ともに底堅い動き

 となっている。

実質総消費動向指数は、前期比で、11月▲0.2%、12月▲0.3%10.0%2+0.2%

  ・消費者態度指数(DI)は前月差で、11+0.4%12+0.9%1+0.8%2+0.9%3+0.5%。 

  ・2月の実質総雇用者所得は、前期比で+0.5%となった。

 

物価

○ 国内企業物価は、横ばいとなっている。輸入物価は、おおむね横ばいとなっている。

消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。

消費者物価は、前年比2%台で、引き続き緩やかに上昇した。4月には、食料品や日用品等で値上げが実施されているが、POS

 データ(レジから収集される顧客の消費行動をデータ化したもの。販売実績のデータでみると、全体として食料品価格等の前年比は、現時点では、

 引き続き縮小傾向で推移している。

・中東情勢が不安定化する中、原油価格は再び上昇しており、輸入物価を通じた影響に留意が必要である。

・サービスの物価上昇率は、0%の割合が縮小、プラスの割合が増加し、1980年代の姿に近づいている。企業の中期的な予想

 物価上昇率は、ここ2年程度は2%程度の安定的な水準にレベルシフトした状態が継続している。

 

住宅投資・公共投資

   住宅建設は弱含んでいる。 

・住宅着工戸数の総戸数は前月比で、11月▲2.0%12+3.1%1月▲1.5%2月▲0.9%

・持家着工数は前月比で、11+1.7%12+1.7%1+0.4%2+7.1%

・貸家着工数は前月比で、11月▲2.7%12+0.6%1+5.0%2月▲1.0

・分譲着工数は前月比で、11月▲4.8%12+9.1%1月▲11.0%2月▲9.3%

   公共投資は、底堅く推移している。

・請負金額は前月比で、10月▲3.3%(出来高▲0.3%)、11+4.3%(出来高▲0.6%)、12+5.7%(出来高+0.9%)、1月▲4.5%

 (出来高+2.6%)、2+21.7%3月▲10.1%             

 

雇用・賃金の動向

   2024年の春闘(第4回集計)の賃上げ率は、引き続き定昇込みで5%超、ベアで3%台半ばと、33年ぶりの高水準となった。

   定昇込みの賃上げ率の分布は、昨年は3%強に山があったのに対して、今年は5%強にシフト。ベアの分布は、昨年は2%弱に

  山があったのに対して、今年は3%台半ばにシフトしており、より多くの企業で高い賃上げ率が実現している。

   昨年2023年の賃上げ率は、若年層、特に高校卒で男女ともに高めだった一方、大学卒は男女ともに中年層で低い傾向と

  なった。 また女性の賃金は、男性に比べ、水準が低く、年齢を重ねても上昇幅が小さい。

    産業別にみると、昨年は、男女とも、人手不足感の高い建設業等で高い賃上げ率となった一方、医療、福祉など公定価格

   部門で は横ばいとなった。本年は、診療報酬改定等における加算措置等により、同分野の高い賃上げに期待される。

)診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬の同時改定において、賃上げに必要な改定率として、医療では+0.88%、介護では+1.59

(処遇改善加算の一本化による賃上げ効果等も含め ると、2.04%)、障害福祉では+1.12%(同1.5%を上回る水準)を確保。賃上げ促進税制の

 活用を組み合わせることにより、2024年度に+2.5%、25年度+2.0%のベアの実現が期待される。

○ 2024年の賃上げの流れを広げるため、適切な価格転嫁や省力化投資の継続、賃金の高い分野への労働移動の後押し、大卒中年

    層を含む全世代リ・スキリングが重要となる。

○ 雇用情勢は、改善の動きがみられる。

 ・就業者数は、最近、中高年を中心に増加傾向にある。長期的にみると、中高年の労働参加率は男女ともに上昇した。

 ・日本人の寿命の最頻値は、男性88歳、女性93歳と長く、男性の4分の1、女性の半分が90歳以上まで生きる状況であり、意欲ある

   高齢者が長く活躍できる環境をつくることが重要となる。

 ・主要先進国間で比較すると、日本の高齢者の労働参加率は高く、伸びも大きい。

 ・有効求人倍率は、111.28121.2711.271.26(正社員は1.01)となった。

 ・完全失業率は、102.5%112.5%122.5%12.422.6となった。

 

投資・収益・業況

○ 企業収益は、総じてみれば改善している。

○ 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。

 ・設備投資のうち、商用車や船舶等の輸送用機械は約6%である。トラックやバンなど貨物車の新車登録台数は、一部自動車メーカー

  の生産・出荷停止の影響で、小型と軽を中心に大幅減となった。241-3月期の設備投資への一時的な影響に注意が必要である。

 ・企業の設備投資は、2023年度は実績見込みで前年度比プラス10.2%2024年度は3月時点の計画としては1990年度以来の伸びとなる

   など、企業の投資意欲には力強さがある。ただし、中小企業では、非製造業で2023年度の実績見込みが23%と高い伸びとなった

   一方、製造業では一部自動車メーカーの生産停止の影響もあって投資先送りの動きもあるなど、ばらつきもある。

○ 業況判断は、改善している。ただし、製造業の一部では、一部自動車メーカーの生産・出荷停止による影響がみられる。

 ・  企業の業況は、売上の約7割を占める非製造業で、バブル期以降の最高水準となった。建設業は過去10年程度、業況が「良い」と

   答える企業が、「悪い」と答える企業を上回る。運輸業では近年、「良い」が増加の一方、「悪い」が減少傾向となっている。

 ・  倒産件数は、増加がみられる。

 ・ 業況判断DI(「良い」-「悪い」)ポイントは短観で、

  「大企業・製造業」は、20236+59+912+1220243+116+10

  「大企業・非製造業」は、20236+239+2712+3020243+346+27

  「中小企業・製造業」は、20236月▲59月▲512+120243月▲16+0

  「中小企業・非製造業」は、20236+119+1212+1420243+136+8

 

生産

 生産は、持ち直しに向かっていたものの、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響により、このところ生産活動が低下している。

  ・製造業では、一部の業種に、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響がみられる。ただし、3月以降、輸送機械の生産は、

    これらのメーカーの生産再開に伴い、徐々に持ち直す見込みとなっている。

  ・鉱工業生産指数は前月比で、12+1.2%1月▲6.7%2月▲0.6%3月(予測)+4.9%4月(予測)+3.3%

  ・はん用・生産用・業務用機械は前月比で、11+1.6%12+4.4%1月▲6.1%2月▲3.2%

  ・電子部品・デバイスは前月比で、11月▲0.9%12+2.0%1月▲4.0%2+0.2%

  ・輸送機械は前月比で、11月▲1.6%12+2.0%1月▲9.9%2月▲11.5%

 

外需

○ 輸出はこのところ持ち直しの動きに足踏みがみられる。輸入はこのところ弱含んでいる。

○ 貿易・サービス収支は、赤字となっている。

 

景気ウォッチャー調査  

   ○ 景気の現状判断(DI)季節調整値は、2月ぶりに下降した

・現状・季節調整値DIは前月差で、12+1.01月▲1.62+1.13月▲1.5

○ 景気の先行き判断(DI)季節調整値は、5か月ぶりに月下降した。

・先行き・季節調整値DIは前月差で、12+0.11+2.12+0.53月▲1.8%

  

アジア経済の動向  

○ 中国では、景気は政策効果により持ち直しの兆しがみられる。先行きについては、各種政策の効果もあり、持ち直しに向かうこと

      が期待される。ただし、不動産市場の停滞や物価の下落が続くことによる影響等に留意する必要がある。

・中国の20241-3月期の実質GDP成長率は5.3%(前期比年率+6.6%)。政策効果により、自動車販売やインフラ投資が増加

  した。景況感にも改善がみられる。

・一方、不動産市場の停滞は、企業・家計の資金需要や銀行の融資姿勢に影響し、足下で新規貸出は低調となっている。また

  消費者物価は4四半期連続ゼロ近傍、GDPデフレーターはマイナスが継続している。物価の下落が続くことによる影響に

  留意が必要である。

・消費は持ち直しに足踏みがみられる。

・生産は、持ち直しの動きがみられる。

・財輸出はおおむね横ばいとなっている。

・固定資産投資は伸びが上昇した。

・新築住宅販売価格は下落している。

・消費者物価は下落した。

・製造業購買担当者指数(PMI)は持ち直しの動きがみられる。

○ 韓国では、景気は持ち直しの動きがみられる。

○ インドでは、景気は回復している。

  ・乗用車販売台数が伸びるなど、内需にけん引されて8%台の成長が続いている。

○ インドネシアでは、景気は緩やかに回復している。

○ 台湾・タイでは、景気は持ち直している。

  

アメリカ経済の動向 

○ アメリカでは、景気は拡大している。 先行きについては、拡大が続くことが期待される。ただし、金融引締めに伴う影響等による

    下振れリスクに留意する必要がある。

202310-12月期のGDP成長率(3次推計値)は、前期比年率+3.4%

○ 雇用者数は増加、失業率はおおむね横ばいとなっている。

3月の失業率は3.8%となった。

○ 設備投資は緩やかに増加している。

○ 消費は増加、自動車販売台数はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産はおおむね横ばいとなっている。

○ 住宅着工数はおおむね横ばい・住宅価格は上昇している。

○ コア物価上昇率はおおむね横ばいとなっている。

○ 財輸出は緩やかに増加した。

     

ヨーロッパ経済の動向  

○ ユーロ圏・ドイツ・イギリスでは、景気は弱含んでいる。

 ・2310-12月期のユーロ圏のGDP成長率は前期比年率で▲0.2% (イギリスは▲1.2%、ドイツは▲1.1%)。

○ 個人消費は、ユーロ圏は弱含んでいる。イギリスは弱い動きとなっている。

○ 失業率は、ユーロ圏は横ばいとなっている。イギリスはおおむね横ばいとなっている。

○ 物価(コア物価上昇率)は、ユーロ圏・イギリスともに低下している。

・消費者物価上昇率(コア)は前年同期比で、ユーロ圏+3.1%3月)、イギリス+4.6%3月)。

○ 財輸出は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。イギリスのサービス輸出はおおむね横ばいとなっている。

○ 生産は、ユーロ圏・イギリスともに弱含んでいる。